ウマ娘 プリティダービー(日本のアニメ、Season1-2、2018-2021年)を観ました。
という素朴な疑問が残りました。
つまり、
- ミホノブルボンの「中央競馬クラシック3冠」を阻止して勝利
- メジロマックイーンの「天皇賞(春)3連覇」を阻止して勝利
このライスシャワーがヒール扱いされる勝利、普通にヒーローでしょ?
ライスシャワーは最終的には、
との自覚を得ますが、それ以前に最初からヒーローです。
しかもライスシャワーにブーイングを浴びせていたのが、ライスシャワーを信じずにほかに賭けたバカな負け犬の遠吠えならまだマシで、
みたいな、自分の人生で1度も真剣に競争したこともなければ、勝ったり負けたりして泣いたこともなければ、ギャンブルにも競走にも興味がなさそうなアイドルオタクの野次馬なのが最悪すぎ。
『ウマ娘』は史実をリスペクトしたストーリーに定評がありますが、もしも上記のような野次馬が実在したなら、
という感じなので、以下で現実の競走成績も参考にしながら、理由を解説します。
では以下目次です。
ライスシャワーがヒール扱いされた理由は?黒い刺客
- ミホノブルボンの「中央競馬クラシック3冠」を阻止して勝利
- メジロマックイーンの「天皇賞(春)3連覇」を阻止して勝利
↑要するにこれです。
「黒い」は、ライスシャワーの馬体が黒い(黒鹿毛)ことに由来しています。
「刺客」は、「ターゲットを付け狙って刺す暗殺者」のことであり、ここではミホノブルボンとメジロマックイーンを徹底マークして差しきった勝利者であることを指します。
では以下で、ライスシャワーが見せたとされる2つの悪夢をご紹介しましょう。
ミホノブルボンの中央競馬クラシック3冠を阻止
JRA(日本中央競馬会)が主催する主要なG1(最高グレード)重賞競走のなかで、「クラシック路線」と呼ばれる一連のレースがあります。
日本競馬における「クラシック」とは、出走条件に「3歳馬」と限定されるレースを指します。
そして日本競馬におけるクラシック路線で目指せる最高クラスの成績が、
です。
この「中央競馬クラシック3冠」は、
- 皐月賞
- 東京優駿(日本ダービー)
- 菊花賞
以上のJRA主要クラシックタイトルをすべて勝利すれば達成されます。
ちなみに、競馬における「勝利」は「第1着」のみです。
さらに、各レースは1年間に1回ずつのみ開催されます。
つまり、「中央競馬クラシック3冠」を言い換えれば、
です。
当然、難易度はベリーハードであり、「中央競馬クラシック3冠」を達成した馬は、
- セントライト(1941年)
- シンザン(1964年)
- ミスターシービー(1983年)
- シンボリルドルフ(1984年)
- ナリタブライタン(1994年)
- ディープインパクト(2005年)
- オルフェーブル(2011年)
- コントレイル(2020年)
と、約80年間に8頭だけ、平均すれば10年に1頭クラスの名馬だといえます。
そして上記のクラシック3冠馬リストに、ミホノブルボン(1992年)も王手をかけていました。
しかもミホノブルボンは、「無敗2冠馬」であり、
- 皐月賞
- 東京優駿(日本ダービー)
までを、デビュー戦から7連勝していました。
当時、それを上回る「無敗3冠馬」だったのは、皇帝シンボリルドルフだけです。
2021年現在でも、「無敗の中央競馬クラシック3冠馬」は、
- シンボリルドルフ(1984年)
- ディープインパクト(2005年)
- コントレイル(2020年)
の3頭のみ、歴代のクラシック3冠馬のなかでも半数未満です。
ここにミホノブルボンも名を連ねかけていました。
残すは菊花賞のみでした。
でもその菊花賞で、
です(なお、ミホノブルボンは2着でした)。
メジロマックイーンの天皇賞(春)3連覇を阻止
天皇賞は、「天皇」の名を冠する格式の高さからも明らかなように、JRAによる日本最高峰のレースです。
その証拠に、天皇賞はミホノブルボンの項で説明した「中央競馬クラシック3冠」レースと同列に扱われ、
- 皐月賞
- 東京優駿(日本ダービー)
- 菊花賞
- 桜花賞
- 優駿牝馬(オークス)
- 天皇賞(春)
- 天皇賞(秋)
- 有馬記念
以上のG1重賞競走は、日本競馬における「八大競走」と称され、最重要視されてきました(ゲーム版『ウマ娘』にも、「八大競走完全制覇」の称号があるとおりです)。
メジロマックイーンは、このうち天皇賞(春)を2連覇した最初の馬です。
そして2021年現在でも、天皇賞(春)を2連覇したのは、
- メジロマックイーン(1991-1992年)
- テイエムオペラオー(2000-2001年)
- フェノーメノ(2013-2014年)
- キタサンブラック(2016-2017年)
- フィエールマン(2019-2020年)
以上の5頭だけです。
2021年現在、天皇賞(春)を3連覇した馬は、1頭も記録されていません。
というか、天皇賞に限らず、JRAの同一G1レース(芝)を3連覇した馬が、1頭も存在しません。
そういう意味では、達成した馬がいる「無敗の中央競馬クラシック3冠」よりも高難易度だといえるのが、「同一のG1レース(芝)3連覇」です。
その大偉業に、メジロマックイーンはあと1歩で届いていました。
天皇賞(春)は、芝3200メートルの長距離レースです。
そしてメジロマックイーンは、当時の最強ステイヤー(長距離馬)と目されていました。
ステイヤー最強の証明として、
- 「中央競馬クラシック3冠」の長距離レース部門、菊花賞(芝3000メートル)を勝利
- 阪神大賞典(G2の芝3000メートル)を2連覇
- 天皇賞(春)も2連覇
- 「天皇賞(春)3連覇」を狙う年には、前哨戦の大阪杯(当時G2の芝2000メートル、現在はG1に昇格)も当時のレコードタイムで勝利
していました。
まさに当時というか、歴代でも最強クラスのステイヤーです。
でもそんなメジロマックイーンが3連覇に挑んだ春の天皇賞で、
です(なお、メジロマックイーンは2着でした)。
ライスシャワーが最初からヒーローである理由の解説
ミホノブルボンは、「中央競馬クラシック3冠」への門を閉ざされました。
メジロマックイーンは、「天皇賞(春)3連覇」への門を閉ざされました。
ミホノブルボンもメジロマックイーンも、圧倒的な強さと人気を兼ね備えていたのに。
歴史的快挙を目前に、応援に駆けつけたファンもたくさんいたのに。
そのファンたちが夢見ていた未来も、ライスシャワーは閉ざしました。
そもそも、「歴史的快挙」とか「夢」とかいうものの価値がどこにあるのかを考えれば自明です。
本記事ではここまで長々と、わざわざ現実の競走成績まで引っ張ってきて、
- 「中央競馬クラシック3冠」
- 「天皇賞(春)3連覇」
を達成するのがいかに困難な道のりであるかを説明してきました。
それはその「困難」こそが、「価値」の正体だからです。
簡単なことをやったって、だれも「歴史的快挙」とは認めないでしょう。
イージーな目標を掲げたとして、それを「夢」と呼ぶこともありません。
ベリーハードだからこそ、「歴史的快挙」だったり「夢」たりえるのです。
そしてライスシャワーがやったことといえば、
と、みんなに思い知らせたことです。
つまりライスシャワーが守ったのは、
- 「中央競馬クラシック3冠」の価値
- 「天皇賞(春)3連覇」の価値
です。
そんなに簡単じゃないよってことを、みんなにわからせたことこそ、ライスシャワー最大の功績です。
極限まで削ぎ落とした身体に、鬼が宿る
王者メジロマックイーンの3連覇を阻んだ、漆黒のステイヤー
ヒールか、ヒーローか
悪夢か、奇跡か
その馬の名は、ライスシャワー
というのはJRAのCM『The WINNER』ですが、「悪夢」という言葉を使うなら、「夢」と「悪夢」は表裏一体です。
先に悪夢を見ているからこそ、悪夢から目覚めたいという「夢」や希望が持てます。
絶望感や閉塞感が存在しなければ、それらを打ち破る奇跡も魔法も存在できません。
だってみんな逆に失望するでしょ、
そんなことになったら、みんな慣れるか萎えるか呆れるかして、それらを「夢」と呼ぶこともなくなります。
それこそ「夢」がない、本当につまらない世界です。
アニメ『ウマ娘』作中では、
と、ライスシャワーが嘆き悲しんでいましたが、「夢」は簡単に掴めても壊れます。
だから「夢」は、簡単に掴めるようではいけません。
そこで競馬の世界においては、
だいたいライスシャワーの「黒い刺客」という呼び名自体、視点が偏っています。
ここで別の視点を可視化するために、「夢」を擬人化&女体化した、
という女の子がいるとしましょう(ツッコミたい気持ちはわかりますが、私たちはただ走らされているだけの馬に感動ストーリーを付与したり、その馬を萌えキャラ化したりする身勝手な生き物です)。
ユメ娘の立場になって考えれば、ユメ娘を付け狙ったミホノブルボンやメジロマックイーンこそ、「刺客」です。
そしてミホノブルボンやメジロマックイーンの魔の手からユメ娘を守ったライスシャワーは、「ヒーロー」です。
現実に話を戻すと、
- 「中央競馬クラシック3冠」の価値
- 「天皇賞(春)3連覇」の価値
を極限まで高い状態に保ったライスシャワーこそ、「ヒーロー」だという見方もあって然るべきでしょう。
まとめ:「天皇賞(春)3連覇」の偉業を担保する馬
- ライスシャワーは、アイドルホースたちの「夢」を「あげません!」したから嫌われた
- でもそもそも「夢」って、「あげません!」されるものを勝ち取るから価値があるもの
- だからライスシャワーの「あげません!」は、むしろ競馬界全体にとってはヒーローだ
以上です(なお、本来の「あげません!」は、ウマ娘版トウカイテイオーの脳内スペシャルウィークのセリフです)。
以下では補足として、思考実験をしてみましょう。
と、私なら答えます。
雑魚狩りしかしていないボクシングの世界3階級制覇は尊敬できないし、低い山しかない世界線の7大陸最高峰制覇には魅力がないのと同じです。
だから今後、特に「天皇賞(春)3連覇」を成し遂げた馬が登場したとき、その偉業はライスシャワーを経由して伝えられます。
だって絶対に100%、「天皇賞(春)3連覇」は、「メジロマックイーンでさえ成し遂げられなかったこと」を根拠に偉業であることが伝えられるからです。
それは同時に、「メジロマックイーンのときにはライスシャワーが立ちはだかった」と伝えられることを意味します。
そうして「天皇賞(春)3連覇」に価値が宿り、
のは明白です。
それってつまり、ヒーローじゃん。
余談:ステイヤー最強はライスシャワーである
本記事では、メジロマックイーンが当時の最強ステイヤーである証明として、
- 1990年……菊花賞(芝3000メートル)を勝利
- 1991年……春の天皇賞(芝3200メートル)を勝利
- 1992年……春の天皇賞(芝3200メートル)を勝利
以上の成績を挙げました。
しかしその後、ライスシャワーは同等の成績に加えて「レコードブレイカー」と呼ばれる、
- 1992年……菊花賞(芝3000メートル)を当時のレコードタイムで勝利
- 1993年……春の天皇賞(芝3200メートル)を当時のレコードタイムで勝利
- 1995年……春の天皇賞(芝3200メートル)を勝利
以上の成績を残しています(1994年の天皇賞は故障により未出走)。
たしかに総合成績を見れば、メジロマックイーンが中距離のG1(宝塚記念)なども制しているのに対し、ライスシャワーは長距離のG1しか制していないなど、ライスシャワーのほうが劣っている点は目立ちます。
が、「ステイヤー」が「長距離馬」であることを考えれば、総合能力は無関係です。
そして「ステイヤー」として両者に勝敗をつけるなら、天皇賞(春)の大一番でライスシャワーはメジロマックイーンとの直接対決を制している(しかもレコード勝ち)という、わかりやすすぎる結果もあります。
したがって、
以上、アニメ『ウマ娘 プリティダービー』を観た感想(とそれを裏付けるための大量の記録)でした!