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【書評】中島敦『弟子』の感想!孔子と子路の師弟愛!

弟子(著:中島敦、初出は『中央公論』1943年2月号)を読みました


弟子 安田尊@『弟子』を謳うブログ。
孔子(中国史上最強の思想家)の弟子、子路を主人公にした、史実ベースの短編小説です
青空文庫 安田尊@青空文庫を謳うブログ。
著作権切れのため、青空文庫にて無料で読めます(「青空 in Browsers」版がオススメ)。

ソース:図書カード:弟子 – 青空文庫 – 2022年10月30日閲覧。

ちなみに『弟子』は、「でし」読み派と「ていし」読み派が争っているそうですが、青空文庫(『ちくま日本文学全集 中島敦』)や文春文庫『現代日本文学館 李陵 山月記』では「でし」と読み仮名が振られています。

まあぶっちゃけ、


安田尊 安田尊@答えを謳うブログ。
本編にいくらでも読めない漢字出てくると思うから、『弟子』の読み方なんて気にしなくていいよ!

というわけで、本記事では中島敦『弟子』の簡単なあらすじから感想までを述べます。

では以下目次です。

中島敦『弟子』の簡単なあらすじ


~中島敦『弟子』の簡単なあらすじ~

弟子 安田尊@『弟子』を謳うブログ。
本作の主人公は孔子の高弟「子路」で、孔子への弟子入り~死亡までのエピソードを断片的に描いた物語です

  1. 師匠……孔子(こうし)
  2. 弟子……子路(しろ)

基本的には上記「師弟」が主要人物ですが、子路以外の弟子たち(特に、子路の対比としての子貢など)も多数登場します。

では、主人公の子路とはいったいどういう人物だったのか?

『弟子』の書き出しを引用後、簡単に翻訳します。


~難しい原文~

弟子 『弟子』のイメージ
魯(ろ)の卞(べん)の游侠(ゆうきょう)の徒、仲由(ちゅうゆう)、字(あざな)は子路という者が、近頃賢者の噂も高い学匠・陬人(すうひと)孔丘(こうきゅう)を辱しめてくれようものと思い立った。似而非(えせ)賢者何程のことやあらんと、蓬頭突鬢(ほうとうとつびん)・垂冠(すいかん)・短後(たんこう)の衣という服装(いでたち)で、左手に雄鶏(おんどり)、右手に牡豚(おすぶた)を引提げ、勢い猛に、孔丘が家を指して出掛ける。鶏を揺り豚を奮い、嗷(かまびす)しい脣吻(しんぷん)の音をもって、儒家(じゅか)の絃歌講誦(げんかこうしょう)の声を擾(みだ)そうというのである。

~簡単な翻訳~
安田尊 安田尊@簡単翻訳を謳うブログ。
昔々、中国に子路というバカな若者がいて、世間で賢いと噂の孔子を論破しにいきました。

ちなみにこのとき、孔子は30代で、子路は9歳年下でした。

孔子は、子路とのレスバトルを受けて立ち、問答を始めます。

以後、基本的に「簡単な翻訳」バージョンのみでいきます。


~孔子と子路のレスバトル~

孔子 安田尊@孔子を謳うブログ。
「学」とはなにか?
子路 安田尊@子路を謳うブログ。
「学」とは無益なり

子路 安田尊@子路を謳うブログ。
たとえば、自然に真っ直ぐ頑丈な竹は、余計な加工をせずとも竹槍の如く動物の皮を貫ける
竹槍 安田尊@竹槍を謳うブログ。
生まれつき有能な人間には、「余計な加工」⇒「学」など不要だということだ!

孔子 安田尊@孔子を謳うブログ。
しかし、「学」によってその竹を飛ばせば、城をも破壊する兵器になる
ミサイル 安田尊@ミサイルを謳うブログ。
おまえは動物相手にイキっている竹槍野郎で満足なのか?

子路 安田尊@子路を謳うブログ。
……降参します。弟子にしてください

こうして子路は、孔子に逆論破されて、孔子一門に降りました。

弟子入りしてわかったことは、孔子は勉強しかできないガリ勉ではなく、文武両道で子路を圧倒する完璧超人だということでした。

子路は、たった9歳年上でしかない孔子に無限の年齢差を感じ、すぐに孔子信者となり、


子路 安田尊@子路を謳うブログ。
孔子の悪口をいっているやつがいたら、片っ端からぶん殴ったり、喧嘩を売ったりして黙らせました。

子路には、音楽を奏でているときでさえ音色に表れるような、殺伐とした暴力性があります。

そのせいで、子路はよく孔子に叱られましたが、この正義だけは孔子にも譲れませんでした。

そうして子路は、孔子の下でメキメキと実力を伸ばしていくなかで、子どもの頃からずっと抱いていた疑念が晴れません。


孔子 安田尊@孔子を謳うブログ。
←どうしてこの天下は、孔子のような聖人がどこの国にも重用されず、
子路 安田尊@子路を謳うブログ。
強欲や性欲だけで生きているようなサルが国の王様や重臣になっているのか?

実際、孔子と子路は一時期、魯の国で重用されて目覚ましい成果を上げました。

しかし、孔子の力を恐れた敵国が、魯の国にちょっと美女軍団を贈っただけで……。

魯の主君もほかの重臣たちも、メロメロの骨抜きにされて、国が傾きました。


孔子 安田尊@孔子を謳うブログ。
孔子は、サルどもの下半身に支配されている魯の国を諦めて去り、
子路 安田尊@子路を謳うブログ。
子路は、孔子の新しい国探しの旅にお供しながら、涙しました。

それからも、孔子は行く先々で……子路が弟子たちのリーダー格となる前もなった後も、サルに支配された国からの無礼や妨害に遭い続けました。

孔子が賢者であることはどこの国の王も認めるのに、孔子の言葉に耳を傾けて有言実行しようとする王はどこにもいません。

そして子路は、孔子に無礼が働かれるたびに、たとえ王族相手でも正義の暴力を働こうとしました。


孔子 孔子のイメージ
邦に道有る時も直きこと矢のごとし。道無き時もまた矢のごとし。あの男も衛の史魚(しぎょ)の類だな。恐らく、尋常な死に方はしないであろう
孔子 安田尊@孔子を謳うブログ。
正直者はバカを見る。いつも真っ直ぐ矢のように飛んでいく男は、普通の死に方をしない

孔子は、子路の正義をこう評します。

昔、衛の国にも「史魚」という大夫(貴族)がいて、己を曲げられない男でした。

史魚は、病気で自分の死期を悟ると、国が傾いているのに無能の弥子瑕(びしか。韓非子にもネタにされているバカ)を重用している王様に抗議して、


史魚 安田尊@史魚を謳うブログ。
自分の葬式で、自分の死体を(正式な場所に安置させず)窓の下に放置させる

という、正義の死体遺棄を決行しました(実行者は遺言を託された息子)。

当時の中国で、貴族が自分の死体や葬式をゴミみたいに扱うのは、かなり衝撃的でした。

「史魚屍諫(しぎょしかん)」という言葉まで生まれたほどです。


~「史魚屍諫」の意味~

史魚屍諫 安田尊@「史魚屍諫」を謳うブログ。
史魚のように、己の屍を使って主君を諫めること。
史魚 安田尊@史魚を謳うブログ。
王様へ。私のゴミみたいな死体を見たか? これはおまえに失望した私の姿なんだからな……おまえが捨てたゴミなんだから、よく目に焼き付けておけよ……

これには衛の王様も大変ショックを受けました。

そして、史魚の助言通りに弥子瑕(バカ)を要職から外し、蘧伯玉(きょはくぎょく。賢者)を要職に就けました。

孔子曰く、


孔子 安田尊@孔子を謳うブログ。
子路もこの史魚と同じように、普通ではない死を遂げる……。
子路 安田尊@子路を謳うブログ。
そして孔子のいうとおり、子路の最期は悲惨なものでした。

後年の子路は、孔子の推薦で衛の国に仕えていましたが、政変(権力争い)に巻き込まれました。

敵に主君を捕らえられた子路は、果敢に主君を奪還しようとするも失敗、敵の剣に切り刻まれます。

子路は死の直前、戦闘で地面に落ちた自分の冠を拾い、礼儀正しく被り直して紐を結びました。


子路 子路のイメージ
見よ! 君子は、冠を、正しゅうして、死ぬものだぞ!

衛の国で政変が起きたとの知らせを受けた孔子は、衛へ赴いていたふたりの弟子を思い浮かべました。

子路(仲由子路)と、子羔(高柴子羔)です。

そして、そのふたりの弟子について、


孔子 安田尊@孔子を謳うブログ。
柴(子羔)は生きて帰るが、由(子路)は死ぬだろう……

と予言して、そのとおり子羔は逃げ帰りましたが、子路は帰らぬ人となりました。

孔子は涙し、子路の死体が塩漬けにされた(保存処理を施した上で長期間晒される刑罰を受けた)ことを知ると、家のなかの塩漬け加工食をすべて破棄させました。

それから一生、孔子が塩漬け肉を食べることはありませんでした。

簡単な読み方は?雰囲気で読む!


安田尊 安田尊@答えを謳うブログ。
以上が中島敦『弟子』の簡単なあらすじですが……原文が難しすぎますよね?

  • 陬人孔丘
  • 蓬頭突鬢
  • 嗷しい
  • 脣吻の音
  • 絃歌講誦
  • 擾そう

↑書き出しだけでもこの有様、読み仮名は振られているとして、正確な意味を知る日本人がどれだけいるのか?

「絃歌講誦の声」だとか「嗷しい脣吻の音」だとか、どんな声色だか正確に想像できますか?

よっぽどの読書好きでもない限り、この調子が最後まで続くと予想すれば(そしてその予想は正しい)、この書き出しを見ただけで本を閉じそうです。


適当 安田尊@適当を謳うブログ。
でも大丈夫、正確に想像する必要はありません。

わからないうちは、雰囲気で読めばいいのです。

ひとつひとつの熟語はわからなくても、全体を通して読めるところだけ読めば、意味もなんとなくわかります。

たとえば「陬人孔丘」なら、直前に「賢者の噂も高い学匠」とあります。


~難しい原文~

弟子 『弟子』のイメージ
近頃賢者の噂も高い学匠・陬人(すうひと)孔丘(こうきゅう)

~簡単な読解~
安田尊 安田尊@簡単読解を謳うブログ。
つまり「陬人孔丘」とは、頭が良い学者の先生かなにかだな……

この程度の理解でも、ストーリーを読み進めるのに問題はありません。

「陬」が孔子の出身地の名称だとか、「孔丘」が孔子の名前で、「孔子」はその尊称だとかまでは把握する必要がありません。

「絃歌講誦の声」や、「嗷しい脣吻の音」も同様です。


~「絃歌講誦の声」~

孔子 安田尊@孔子を謳うブログ。
(先生の)なんだか偉そうな声。

~「嗷しい脣吻の音」~
子路 安田尊@子路を謳うブログ。
(子路の)バカが騒いでいる声。

子路がバカだったのは、両手でニワトリとかブタとかを振り回しながら他人の家に乗り込んでいることからも明らかです。

そんなバカの言葉は、騒音にしかなりませんよね。

しかし、そんな「愛すべき単純な若者」は、孔子との師弟愛を育んで大きく成長します。


安田尊 安田尊@答えを謳うブログ。
やがて孔子門下の十哲(十人の高弟)に数えられる子路のエピソード集、読んでおいて損はありません。

教訓は?学問とは超能力である!


~中島敦『弟子』の教訓~

安田尊 安田尊@答えを謳うブログ。
仲良し同士が相手の死期を悟るのいいよね……!! 私は、『三国志』のあの話も好きです。

~『弟子』~
孔子 安田尊@孔子を謳うブログ。
孔子は、子路の赴任する衛で政変ありとの知らせを受けた時点で、子路の死を確信しました。

~『三国志』~
劉備 ↑劉備(イケメンすぎ)
劉備は、張飛の赴任する呉班から上奏文が届いたと知った時点で、張飛の死を確信しました。

劉備は、三国志(魏・蜀・呉の三国がバトルした中国史)の一角、蜀の君主です。

張飛は、関羽や諸葛亮と並ぶ蜀の幹部です。

劉備と関羽と張飛は、まるで兄弟のように仲が良く、三国志演義(三国志をベースにした小説)では義兄弟の契りを結んでいます(桃園の誓い)。


孔子 安田尊@孔子を謳うブログ。
本当に相手と深く通じ合っていれば、死期もわかる!!

といわんばかりのこういうエピソードが、私は大好きです。

ちなみに、「虫の知らせ」的な、靴紐が切れたり写真立てが倒れたりするオカルトパワーで不幸を知るのは好きではありません。

論理的ではないからです。


子路 安田尊@子路を謳うブログ。
子路の性格や乱世に通じているからこそ、衛の政変⇒子路の死が繋がる。

この超能力じみたコミュニケーションは、関係性が親密だからこそ為せる業です。

虫が知らせているのではなく、人となりが知らせています。

それを知れること、少ないヒントから重大な答えを導き出せる知恵や関係性を築くこと、


孔子 安田尊@孔子を謳うブログ。
孔子と、この愛弟子のようなコミュニケーションこそ、私たちの規範となるものです。

  • 親子関係
  • 恋人関係
  • 友人関係

あらゆる関係性で、私たちには超能力じみたコミュニケーションが必要です。

本作『弟子』に基づくなら、それの実現に最も近いトレーニングは、学問を修めることでしょう。

孔子は、衛の国に子路(仲由)を推薦する際に、こう褒め称えました。


~超能力~

孔子 孔子のイメージ
片言もって獄を折むべきものは、それ由(子路)か
孔子 安田尊@孔子を謳うブログ。
訴訟沙汰において、片方の言い分だけを聞いて正しい判決を下せる者は、子路だけである

まとめ:中島敦『弟子』の感想!


安田尊 安田尊@まとめを謳うブログ。
それではおさらいも兼ねて、ここまでの要点を3点でまとめます。

  1. 中島敦『弟子』は、孔子の弟子である子路を主人公に、師弟関係を描いた小説
  2. 難解な漢字&読み方が多く、普通に読むのが難しい場合、雰囲気で読めばいい
  3. 十分に習得した学問は超能力と見分けがつかず、孔子も子路も超能力者だった

以上です。

以下総評!

中島敦『李陵』『山月記』より好き!
読書感想 安田尊@読書感想を謳うブログ。

評価: 5.0中島敦『弟子』は、孔子と子路の師弟関係を描いた短編で、文庫版なら40ページ~50ページぐらいです

それをさらに短くした本記事のあらすじは、中島敦の才能を全部殺しています(大虐殺です)。
まあそれがあらすじ(荒い筋)なんですが、原著を読んだことがない方には原著をオススメします。
無料だし(青空文庫)。
たかだか50ページ、雰囲気で読めば、遅くとも数時間で読めます。
ただし、意味がわからない言葉をいちいち検索しながら読む場合は、そのへんの300ページの大衆小説より時間と体力を消耗する可能性があります。
私も、「史魚」のくだりとかを調べるのに、少し時間がかかりました。
孔子「邦に道有る時も直きこと矢のごとし。道無き時もまた矢のごとし。あの男も衛の史魚の類だな。恐らく、尋常な死に方はしないであろう
とかいいながら、「史魚屍諫」の補足がなにもなかったからです。
まず現代の日本で、史魚なんてだれも知りません(初版の1943年頃はみんな知っていたんでしょうか?)。
たかだか10年前や20年前の漫画やアニメの知識だって、若者は知らないのに……。
孔子レベルの偉人ならまだしも、史魚なんていう2500年前のほぼ無名の大夫なんて、中国人でも知らないでしょう。
それで「直きこと矢のごとし。あの男も衛の史魚の類だな」とかいわれても、具体的にどういう生き方……?
「ダツ」とかいうダーツの矢みたいに細長くて尖った魚がいますが、昔の中国にはそういう魚がいたのかって勘違いされてもおかしくありません。
というわけで(愚痴終わり)、孔子のセリフひとつ取ってもこんな感じなので、全編で詳しく調べようとすると莫大な時間がかかります。
それこそ、学者の仕事レベルです。
でも雰囲気で読むなら、『弟子』はさくっと読めます。
特に、孔子やその言行集『論語』が好きな人には、オススメです。
中島敦といえば、代表作『李陵』や『山月記』が有名ですが、私は『弟子』が一番好きでした!

以上、中島敦『弟子』の読書感想文でした!

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