文豪たちの悪口本(著:彩図社文芸部)を読みました。
ネット上の誹謗中傷が社会問題化して注目を浴びる昨今、
と嘆く声も聞かれますが、では昔の日本人……特に文豪はどうだったのか?
断言します。
もしも彼らが現代によみがえれば、ネット上で手当たり次第にレスバトルを仕掛けながら殺害予告を書き込みます。
本書「文豪たちの悪口本」では、文豪というからには深く迂遠な比喩表現で悪口をいっているのかと思えば、
みたいな文言が悪目立ちしていました。
やはり装飾過多な文章は素人の仕事。
文豪ともなれば、シンプル・イズ・ベストに行き着くのでしょうか?
本記事では「文豪たちの悪口本」の内容を軽く紹介し、私が気になった文豪たちの殺意をピックアップして感想を述べます。
では以下目次です。
文豪と呼ばれる大作家たちは、悪口を言うとき、どんな言葉を使ったのだろうか。
そんな疑問からできたのが、本書『文豪たちの悪口本』です。
選んだ悪口は、文豪同士の喧嘩や家族へのあてつけ、世間への愚痴など。随筆、日記、手紙、友人や家族の証言から、文豪たちの人となりがわかるような文章やフレーズを選びました。これらを作家ごとに分類し、計8章にわたって紹介していきます。
川端康成に「刺す」と恨み言を残した太宰治、周囲の人に手当たりしだいからんでいた中原中也、女性をめぐって絶交した谷崎潤一郎と佐藤春夫など、文豪たちの印象的な悪口エピソードを紹介しています。
文豪たちにも人間らしい一面があるんだと感じていただけたら、うれしく思います。(Amazonの商品紹介より抜粋)
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「文豪たちの悪口本」の内容紹介と収録文豪の一覧!
悪口の表現者として収録されている主な文豪は、
- 太宰治(だざい・おさむ)
- 中原中也(なかはら・ちゅうや)
- 志賀直哉(しが・なおや)
- 織田作之助(おだ・さくのすけ)
- 坂口安吾(さかぐち・あんご)
- 夏目漱石(なつめ・そうせき)
- 芥川龍之介(あくたがわ・りゅうのすけ)
- 菊池寛(きくち・かん)
- 今東光(こん・とうこう)
- 永井荷風(ながい・かふう)
- 宮武外骨(みやたけ・がいこつ)
- 谷崎潤一郎(たにざき・じゅんいちろう)
- 佐藤春夫(さとう・はるお)
です。
また主な対立エピソードとしては、
- 芥川龍之介賞に落選してブチギレ抗議文を送った太宰治
- 文壇の正統派(志賀直哉)と無頼派(太宰治ら)の確執
- 「文藝春秋」率いる菊池寛と「文藝時代」今東光の対立
- 菊池寛に「菊地」の誤字を指摘され効きまくる永井荷風
- 谷崎潤一郎の妻に惚れて谷崎潤一郎と絶交する佐藤春夫
などが収録されています。
私は当時の文壇の分断などには特に興味がありませんでしたが、正統派と無頼派の対立や、雑誌同士の対立は当時の空気感に興味がある方には面白いと思います。
それと谷崎潤一郎と佐藤春夫の喧嘩も、本当に女々しすぎる文通で読んでいられませんでしたが、好きな人は好きでしょう。
という名言も生まれていることですし。
しかし「文豪たちの悪口本」は、文壇や女の取り合いに興味がない私でも十分笑えた一冊でした。
では以下から、私が面白いと思った「文豪による悪口エピソード」をご紹介していきましょう。
太宰治「刺す。」
さっそくですが、太宰治は「人間失格」や「走れメロス」、およびその改変コピペなどで現代でも人気を博す文豪です。
そんな太宰治の「刺す。」は、「文豪たちの悪口本」表紙にも抜擢されている超有名な文言です。
日本で最も有名な脅迫といっても差し支えないでしょう。
そう、悪口とかではなく、単なる殺意の表明です。
じつは「刺す。」のあとには続きがあり、
と過去形であることが判明しますが、抗議文を受け取った川端康成からすれば、どちらにせよ心中穏やかではいられなかったことでしょう。
ではなぜ川端康成は、太宰治に抗議文を送られているのか?
川端康成は、第一回芥川龍之介賞の選考委員です。
そして第一回芥川賞の候補作、太宰治の作品「逆行」を評して、
とディスりながら太宰治を落選させています。
この川端康成の「作者目下の生活に厭(いや)な雲ありて」などは文豪らしい悪口ですよね。
一方で太宰治の悪口は、「刺す。」の前後も引用すると、
素直に殺意です。
やっぱりこれ、悪口じゃなくてただの殺意の発露じゃん……と笑ってしまいます。
ちなみに太宰治の章には、太宰治を「言い刺した」家人の話も収録されていおり、
恥かしくて恥かしくてたまらぬことの、そのまんまんなかを、家人は、むぞうさに、言い刺した。飛びあがった。下駄はいて線路! 一瞬間、仁王立ち。七輪(しちりん)蹴った。バケツ蹴飛ばした。四畳半に来て、鉄びん障子(しょうじ)に。障子のガラスが音たてた。ちゃぶ台蹴った。壁に醤油。茶わんと皿。私の身がわりになったのだ。これだけ、こわさなければ、私は生きて居れなかった。後悔なし。
だそうです。
太宰治の章にはその他の悪口集も収録されていますが、私はそうした愚痴や悪口や「刺す。」より、
のほうが好きです。
散々物に八つ当たりをする人間の弱さと、その弱さを肯定する潔さの同居に人間的魅力を感じます。
それに殺意に関しては、太宰治より上もいることですし……。
次の項目でご紹介しましょう。
中原中也「殺すぞ」
さて、太宰治より上の殺意とは中原中也のことです。
中原中也は、「汚れちまった悲しみに」や「サーカス」などの作品で知られる詩人です。
太宰治の「刺す。」は一般的に殺意と関連づけられますが、それでもぎりぎり言い逃れの余地はあります(刺したけど殺すつもりはなかった、など)。
しかし中原中也の、
はもはや殺害予告以外の何物でもありません。
というか中原中也は、「殺すぞ」といったあとに相手の頭をビール瓶で殴ったそうです。
殺害予告どころか、半分実行に移しています。
有言実行の男です。
しかし「文豪たちの悪口本」によれば、中原中也に殺意はなかったようですが……引用しましょう(ページの構成として、中央に「殺すぞ」、左側に補足があります)。
大勢で飲んでいたとき、右のように言って中也は中村光夫の頭をビール瓶で殴った。本当に殺すつもりはなかったが、そんな中也を友人青山が「卑怯だぞ」と怒鳴ると、「俺は悲しい」と泣き叫んだ。
ソース:文豪たちの悪口本 – 彩図社文芸部
情緒不安定すぎませんか……お酒のせい?
この殺人未遂について、「文豪たちの悪口本」にはこれ以上のことは書かれていません。
しかし中原中也のほかのエピソードを鑑みるに、生来の気質なのかもしれません。
たとえば中原中也は、初対面の太宰治に対して、
と言い放ち、中原中也を尊敬していた太宰治は泣きそうになったそうです。
また中原中也はNHKの就職面接で、履歴書の備考欄に「詩生活」としか書かなかったことについて面接官に苦言を呈されるやいなや、
と逆質問して不採用になったそうです。
この傍若無人っぷり、就職面接の場において会社にとってではなく自分にとっての意味を優先する姿勢は、
といって相手の頭をビール瓶で殴り、咎められると泣きだす自分勝手さに通じるものがあります。
というか、「殺すぞ」って悪口じゃありませんよね……?
しかし残念ながら、「文豪たちの悪口本」にはほかにも頭を狙った殺人鬼予備軍が収録されています。
夏目漱石「正宗の名刀でスパリと斬ってやり度い。」
夏目漱石といえば、
- 「我輩は猫である」
- 「坊っちゃん」
- 「こゝろ」
その他多数、日本の国語の教科書に載るレベルの名作をいくつも生みだし、千円札の肖像にも選ばれている文豪日本代表です。
そんな夏目漱石ですが、まさかの2killを空想していました。
太宰治や中原中也でさえ1killだったのに、まさかのダブル・キルです。
しかも太宰治の「刺す。」なんて生易しいものではなく、
そうです。
それは中原中也のような庶民的な「ビール瓶」などではなく、
を妻と下女(召使い)の頭に振り下ろしたいそうです。
量、質、ともに夏目漱石が太宰治を凌駕し、中原中也を上回っています。
圧倒的です。
真打ちの登場です。
ただし方向性が、悪口ではありません。
どう見ても殺意の告白です。
しかしそこは夏目漱石、理知的に軌道修正を試みています。
さすがは夏目漱石、殺意を見事にコントロール。
最後は妻への悪口へと昇華させてしまいました。
が、一瞬騙されかけましたが、いうほど昇華されていますか?
夏目漱石の軌道修正を順番に整理すると以下のようになります。
- 癇癪が起ると妻も召使いも殺したくなるなあ
- でも我慢しないと自分も切腹させられるなあ
- でも我慢するとムカムカして便秘になるなあ
- 僕の妻は何だか人間のような心持ちがしない
④「僕の妻は何だか人間のような心持ちがしない」この悪口唐突すぎない?
脈絡どこ?
私の国語力の問題?
まあ脈絡というなら、そもそも①で癇癪を起こして殺意に目覚めるところから唐突なんですが……。
この情緒不安定さは中原中也に通じるものがあります。
そういえば夏目漱石の章に収録されている悪口には、
と、嫌いな青魚をくさした言葉があります。
中原中也の名言「青鯖が空に浮かんだような顔しやがって」を思い出さずにはいられませんね。
青魚を敵視している人間には、近寄らないほうがいいのかもしれません……。
菊池寛「自分の名前」
さて、本記事では少々文豪の殺意に注目しすぎました。
このままでは日本の誉れある文豪と、「文豪たちの悪口本」の名誉が危ういかもしれません。
そこで最後は、私が「文豪たちの悪口本」収録中で最強だと思った悪口をご紹介します。
正真正銘、私が本来期待していた方向性の悪口です。
それが現代まで存続する有名雑誌、「文藝春秋」創刊者である菊池寛の、
と題された文章です。
事の経緯はシンプルです。
菊池寛は常々、自分の名字を「菊地」と間違えられることにイラついていました。
そしてとうとうイライラが爆発したのでしょう、菊池寛は自分の名前を「菊地寛」と表記した雑誌社および、自分の祖先の名字を「菊地」と誤字した文豪の永井荷風を盛大にディスりました。
では引用しましょう(原文そのままは少し読みづらいため、途中1回だけスペースを入れます)。
自分の名前(「文芸当座帳」より)
自分の名前を書き違えられるほど、不愉快なことはない自分は、数年来自分の姓が、菊池であって、菊地でないことを呼号しているが、未(いまだ)に菊地と誤られる。昨年も大阪の某雑誌に、自分の言説を無断で掲載したものがあり、人を以て抗議すると、あれは菊地寛と署名してあるから、菊池寛氏のことではないと云う挨拶であった。菊地寛と云う名前が、自分でないと云うことになると、自分はいよいよ声を大にして、菊池姓であると呼号せずにはいられないのである。一体菊地など云う姓は、日本姓氏録にある名前と思われない。現在菊地姓を名乗る人もあるが、それは維新以後生じた新姓であろうと思う。所が、「女性」三月号を見ると永井荷風氏が天保慶応の漢詩人菊池五山のことを悉(ことごと)く、菊地五山と書いている。当代第一の文人たる永井荷風氏の文章だから、雑誌社の方でも厳校の上にも厳校を加えている筈だから、七八ヶ所も出て来る菊地が悉く誤植であるとは思い得ないのである。
菊池五山は、自分の遠祖高松藩文学菊池万年の家弟で、江戸へ出て一家を成した男であるから、菊地姓を名乗っている筈はないのである。常に、博識を以て自任し、現代文人の無学無文(○)を嘲っている荷風先生にして、肝心の人の姓名を誤書するに至っては、沙汰の限りである。難しそうな詩句などを引用するのも、非常に結構だが、それよりも前に、人の名前位は、正確に書いてもいいだろう。尤も、祖先の名前を彰(しょう)してくれるのだから、大変有(あり)がたいが、然し文字などについては頗(すこぶ)る無頓着な僕でも、菊地と誤書されて、非常に不愉快なのだから、漢詩人たる菊池五山は一層不愉快だろう。だが、文壇人中一番国語漢文歴史等の学問のある永井荷風先生が、菊地とかく時代だから、雑誌社の人達などに、菊地と間違えられるのは、あきらめるより外(ほか)仕方がないのかな。荷風氏などが、常々慨嘆される通(とおり)、文字の正しき使い方などに就ては現代は末世なのだろう。
ソース:文豪たちの悪口本 – 彩図社文芸部 / 文芸当座帳 – 菊池寛
自分の名前を間違えられただけでこれ、面白すぎでしょ。
いや、もちろん菊池寛本人は積年のイライラが溜まっていたんでしょうが、
と、大げさに嘆いてみせるテクニックが面白すぎるし悪すぎる。
これこそ正真正銘、文豪の悪口です。
ちなみにディスられた側の永井荷風は、菊池寛の悪口が効きすぎて菊池寛のことを一生恨みに思って攻撃し続けたそうです。
その永井荷風の悪口も「文豪たちの悪口本」には収録されていますが、私の判定では菊池寛の1ラウンドTKO(テクニカル・ノック・アウト)勝利なので省略します。
というわけでまとめましょう。
まとめ:「文豪たちの悪口本」の感想!太宰治が好き
評価: 5.0なお、収録されている文豪の本を一冊もまともに読んだことがなくても楽しめます。ソースは私です。むしろ有名エピソードが多そうだったため、文豪をよく知る人には少し物足りないかもしれません。文豪をよく知らない人のほうが「文豪たちの悪口本」を楽しめるでしょう。そして文豪に興味を持つきっかけにもなるはずです。
以上が総評です。
ちなみに本書「文豪たちの悪口本」で私が興味を持ったのは太宰治と菊池寛です。
太宰治は「文豪による悪口」としては菊池寛と比べるとちょっと弱いですが、いまなお人気であり続ける魅力の一端が知れました。
菊池寛は「文豪による悪口」として100点です。
しかしどちらかひとりを選べといわれれば、やはり太宰治でしょうか。
太宰治の悪口も決してショボいわけではありません。
その証拠に、太宰治が志賀直哉をディスりまくる文章の一部を引用して終わりましょう。
雑誌「文藝」の座談会にて、志賀直哉が太宰治作品の「斜陽」について、「貴族の令嬢の言葉遣いがおかしい」とディスったことに対する反撃です。
匿名掲示板とかで一生レスバトルしてそうで好き。
文豪と呼ばれる大作家たちは、悪口を言うとき、どんな言葉を使ったのだろうか。
そんな疑問からできたのが、本書『文豪たちの悪口本』です。
選んだ悪口は、文豪同士の喧嘩や家族へのあてつけ、世間への愚痴など。随筆、日記、手紙、友人や家族の証言から、文豪たちの人となりがわかるような文章やフレーズを選びました。これらを作家ごとに分類し、計8章にわたって紹介していきます。
川端康成に「刺す」と恨み言を残した太宰治、周囲の人に手当たりしだいからんでいた中原中也、女性をめぐって絶交した谷崎潤一郎と佐藤春夫など、文豪たちの印象的な悪口エピソードを紹介しています。
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THIS IS THE ANSWER.