70歳からの世界征服(著:中田考・田中真知・矢内東紀)を読みました。
です。
前作が13歳で今作が70歳……13歳以上で70歳未満の私からすれば、「ちょうどいいところはないのか……」という感じですが、自分が何歳であれ、自分にちょうどいい文章を見つけられるかどうかは自分次第です。
素直に読めば、本作『70歳からの世界征服』には、
としか書かれていないので、むしろ対象年齢である70歳前後の方のほうが素直に読めないかもしれません。
ちなみに上記中田考先生のセリフは私が雑にまとめたとかそういうわけではなく、原文ママでそう書かれています。
残りは蛇足です。
しかしその蛇足からなにを読み取るかも、自分次第です。
というわけで、『70歳からの世界征服』の感想です。
『70歳からの世界征服』の簡単な内容紹介
が、本書『70歳からの世界征服』のキャッチコピーです。
作中では「人は死に、今生に意味はない」と繋げて表記されており、上記のように分断はされていませんが、帯では分断され、間に中田考先生のイラスト付きで刷られています。
そのデザインやリズム感が秀逸で、私は見事にキャッチされました。
さて、
とする中田考先生は、世界有数のイスラーム法学者であり、自身イスラーム教徒です。
したがって、中田考先生はイスラームで信じられている「来世」を信じています。
世界に意味を求められるとすれば、それは現世の外側の世界=来世であって、現世の内側の世界=今生に意味はない。
ということは、人間が生きようが死のうが、意味はない。
特にもうすぐ死ぬ老人は、もうすぐ死ぬくせして、
- 無駄に老後の資金を2000万円貯めるとか、
- 無駄に老後の生き甲斐や趣味を探すとか、
- 無駄に老後の健康や長生きを目指すけど、
全部意味ないし、老後に張り切られても迷惑なだけだから、後進に道を譲って死んでください。
というのが本書のメイン・メッセージです。
いわば本書はそうした「無駄」を奨励するはた迷惑な「老後の自己啓発本」のアンチ本です。
しかしそうした中田考先生のメイン思想を前作『13歳からの世界征服』のように書き連ねてしまうと、自殺幇助になりかねないインパクトが抑えられないため、
- 矢内東紀(別名「えらいてんちょう」、本作執筆時29歳、起業家、作家、YouTuberなど肩書き多数)
- 田中真知(本作執筆時60歳、作家、翻訳家、インタビュアーなど)
両氏が加わって少しだけ中和されています。
なお中田考先生も本記事執筆時点で60歳であり、本人も作中で「老人」を自称していますが、その矛盾については次の項目で触れます。
本項目の最後に、本書『70歳からの世界征服』の目次を簡単にご紹介して終わります。
- 第1章「死に方入門」(著:中田考)
- 第2章「老人と新型コロナウイルス」(対談:中田考×田中真知)
- 第3章「姥捨山から蜂起せよ」(著:矢内東紀)
- 第4章「70歳からの世界征服」(著:中田考×矢内東紀)
注意点としては、前作『13歳からの世界征服』と同じQ&A形式を取っているのは第4章だけです。
相談形式がたくさん読みたい方は、肩すかしを食らいかねないことをご留意ください。
無敵になりたい老人は宗教に入信すればいい
と本書『70歳からの世界征服』で回答されているとおり、中田考先生は作中で幾度か「老人」を自称されています。
そして本書のメイン・メッセージは、
です。
つまり本書は、老人が老人に対して、
といっているわけです。
そこで、
という意見が当然予想されますよね。
しかし、
ため、イスラーム教徒である中田考先生は無敵です。
これ、ちょっとずるいな……と思ったんですけど……ずるくないですか?
だって、
マジで無敵では?
だって私が老人になって同じことをいえば、
「じゃあおまえから死ねば?」
に反論できませんし、
- さっさと死ぬか、
- 生けるダブルスタンダードになるか、
の二択しかないわけです。
しかし、イスラーム教徒を始め、自殺を禁止している宗教に入信すれば、生きながらにしてダブルスタンダードを回避できる。
だってアッラー(神)に人間如きが逆らうわけにはいきませんからね。
こうして、
- 自分の個人的な主義や主張とは別に、
- 自分の命はアッラーの所有物であり、
- 自分が勝手に死ぬわけにはいかない。
というロジックが成立します。
しかもその上で、中田考先生のように国民健康保険や国民年金にも加入せず、
です。
少なくとも、無駄に病院通いを繰り返したり、無駄に延命させられたりしている老人に比べれば、筋は通っています。
無敵になりたい老人の方は、真似するといいと思います。
さて、私がいきなり「無敵になる方法」を解説した理由ですが、本書にはマジで老人に対して手厳しい言葉が並んでいるからです。
次の項目から一部抜粋していきます。
悲しまれる老人と悲しまれない老人
――将来的にはわかりませんが、しばらくは新型コロナウイルスで死んだというのは世間からすれば、悲劇の犠牲になったという見方をされていくでしょうね。自業自得ではなく犠牲になった。だから周りも悲しみますね。
中田 それなのに、みんなにうつしてやると言って暴れる年寄りがいたりする。マスクを買うために列に並んだり、騒ぎ立てているのも老人が多い。長い間生きてきてそんな歳の取り方しかできなかったクズどもはさっさと死ね、と思いますね。
ソース:『70歳からの世界征服』 – 対談:中田考×田中真知 – 百万年書房
宗教学者の島田裕巳先生が、「昔、人はもっと惜しまれて死んだいった」と言っています。40代、50代で死ぬ人が少なくなかったからです。社会的に重責のある人が若くして亡くなって、みんながオイオイ泣く。でも、今は医療が発達して、80歳、90歳で何の社会的役割もない人が死にましたっていう話ばかり。悲しいどころか、周りにさんざん老害さらして迷惑していたのが、やっと死んでくれてホッとしたという方が多い。
ソース:『70歳からの世界征服』 – 著:矢内東紀 – 百万年書房
散々ないわれようですが、三者が共通して指摘しているのは、
1死後、悲しまれる老人と、
2死後、悲しまれない老人がいる
という現実です。
という声が聞こえてきそうですが、わかっていない老人が多いからこそ、「クズ」とか「老害」とかいわれてしまうわけですね。
若者こそ焦るべき
これしかありません。
本書『70歳からの世界征服』には、繰り返しある種の諦念が登場します。
定年退職するまでダメだった人間が、老後から急にまともになるわけがない、ということです。
老後から焦っても遅いんです。
第二の人生なんてありません。
ず~~~~っと、第一の人生の延長線上にある延長戦でしかない。
中田考先生はいいます。
だから変わりたければ、若いうちに変わっておくしかない。
私が大好きなDJ集団『レペゼン地球』の一番好きな楽曲『J』でも、こう歌われています。
今日を上書きできるのなら
今日という日を 何か変えれたら
未来を 書き換えれるはず だけど
戻ってはこない
一度きりの今日
巻き戻せない
人生だから
動画ソース:【レペゼン地球】65thシングル『J』 – YouTube – 2020年10月31日(土)閲覧。
未来を変える方法は、これだけです。
若いときからバカをやっていた人間が、「若いから」という理由だけで見逃されていたことにも気づかず、そのままなんの成長もせず気づけば「クズ」で「老害」になっている。
あるいは若いときからぼーっと生きていた人間が、そしてジジィになって、『やりたいこと出来なかった』って『だけど良い人生だった』って強がったって仕方ない人生を終えようとしていることに気づく。
本書はそういうぼーっとした老人に、
そのままぼーっとしていればいいよ、ぼーっとしていようがいまいが無意味な人生に変わりはないから、そのまま悪あがきせず死ねばいい……という本ですが、若者はまだそこまで手遅れではないでしょう。
だからそうなりたくない若者は、若いうちから焦る必要がある。
手遅れになる前に、予防しておく必要がある。
そういう意味では、本書は『70歳からの世界征服』というタイトルですが、本当は10代や20代の若者こそが読むべき本なのかもしれません。
YouTubeは少子高齢化社会を救うか?
ところで、前作『13歳からの世界征服』には三種の神器が如く持ち出されていた解決策があります。
- 交番
- 刑務所
- 生活保護
です。
今作『70歳からの世界征服』にはこれらに加えて、YouTuberでもある矢内東紀(えらいてんちょう)氏が提唱する、
が追加されています。
- 介護老人保健施設
- グループホーム
- 病院
そんなところで他人に迷惑をかけて生きるのはやめて、YouTubeで余生を過ごせばいい、という考え方です。
YouTube上にはすでに人間ひとりが生まれてから死ぬまで見続けても消費しきれない数の動画がアップロードされています。
またコメント欄でコミュニケーションを取ることもできます。
自分でYouTuberデビューを果たして、動画やライブ配信やテレビ電話のような形で話し相手を探すこともできます。
スマホ1台操作できれば、自宅で、ベッドの上で、たとえ寝たきりであっても、YouTuberにはなれます。
そうしてYouTube上でコミュニティを作り、自分の居場所を作れば、だれに迷惑をかけるわけでもない。
病院や介護施設に移動する手間もお金も、人件費もかかりません。
スマホ本体や通信料を除けば、YouTubeの利用は基本的には無料です。
したがって、
というわけです。
なかなか面白いアイデアですよね。
ただ、私がこのアイデアを読んで脳裏に浮かんだニュースが3つあります。
すべて2020年10月に報じられたニュースです。
ソース1:「限界だった」たった1人の介護の果て なぜ22歳の孫は祖母を手にかけたのか – ライブドアニュース – 2020年10月31日(土)閲覧。
ソース2:不明女児の母親をブログで名誉毀損か 逮捕の男「私の社会正義だ」 – ライブドアニュース – 2020年10月31日(土)閲覧。
ソース3:弁護士懲戒請求、6人の敗訴確定 朝鮮学校補助金批判ブログに呼応 – ライブドアニュース – 2020年10月31日(土)閲覧。
ソース1は、介護がそんなに生易しいものではないことを物語っています。
祖母は平日の日中こそデイサービスに通ったが、夜間や土日は自宅にいる。女性は毎日、仕事から帰宅した後、祖母に夕食を食べさせた。1~2時間おきにトイレに連れていき、排せつすればシャワーを浴びさせた。深夜の散歩に付き合った。1日2時間ほどしか眠れなかった。
事件当日は、朝からどんよりと曇っていた。まだ暗い午前5時半、女性は隣で寝ていた祖母に「汗をかいた」と起こされた。
体をタオルで拭いたが、「親をないがしろにする」と怒鳴られた。孫の自分を娘と勘違いしたのだろうか。お湯でタオルを温めて拭き直したが、今度は「あんたがおるから生きていても楽しくない」と言われた。
「ごめんね、ごめんね」となだめたが、祖母の非難はやまなかった。気づくと、祖母の体をベッドに押し倒していた。
「もう黙って……」
手には、スヌーピーとピンクのハート柄が入ったフェースタオル。両手で祖母の口に押し込んだ。祖母は数分で動かなくなった。
「おばあちゃんを殺してしまいました」。自殺未遂を図った末、女性は自ら110番した。すぐに警察官がやってきた。
ソース:「限界だった」たった1人の介護の果て なぜ22歳の孫は祖母を手にかけたのか – ライブドアニュース – 2020年10月31日(土)閲覧。
もちろん矢内東紀(えらいてんちょう)氏の代替案が想定しているのは、知的障害がないか、あったとしても軽度な老人の介護です。
が、結局は長生きをすれば人間は必ず知能が衰え、脳卒中や認知症、老人性うつなどを発症します。
1日中自宅にひきこもってYouTubeを見ているだけの生活は、そうした症状への進行を早めそうな気がしないでもありません。
次にソース2と3は、現実で迷惑な人間は、ネット上でも迷惑だということを物語っています。
去年9月、山梨県のキャンプ場で行方が分からなくなった小倉美咲ちゃんの母親について「募金詐欺をした」などとブログに書き込み名誉を毀損したとして、69歳の男が逮捕された。
静岡県熱海市の自称投資家・※※※※容疑者は今年2月、ブログに美咲ちゃんの母親の顔の画像を掲載したうえ、「悪天候を利用し行方不明を企て、募金詐欺をした」などと書き込み、名誉を毀損した疑いが持たれている。
取り調べに対し※※容疑者は「名誉毀損したつもりはありません」と容疑を否認し、「これは私の社会正義だ」と話しているという。このブログでは行方不明になった直後からたびたび母親の名誉を傷つけるような投稿が続いていて、警察は動機などを詳しく調べる方針。(ANNニュース)
ソース2:不明女児の母親をブログで名誉毀損か 逮捕の男「私の社会正義だ」 – ライブドアニュース – 2020年10月31日(土)閲覧。
これはブログの例ですが、YouTubeでも同じことが起こりそうな気がします。
すでに事件の被害者や死者を冒涜する有名老人YouTuberが存在することは、YouTubeをよく利用されている方ならご存知でしょう。
またソース3も認知がバグった正義を信じ込んでいるパターンで、いわゆる「余命ブログ」問題です。
ソース:高齢者がハマった問題のブログ「余命三年時事日記」の中身 – 日刊ゲンダイDIGITAL – 2020年10月31日(土)閲覧。
まさに暴走老人がネット上の妄想を信じて徒党を組み、弁護士相手に大暴れをして大敗中という最悪な事件です。
これらの事件からいえることは、結局のところ、
ってことです。
矢内東紀(えらいてんちょう)氏自身、YouTubeやTwitterで暴れながらヒートアップし、果てはリアルで大立ち回りを演じていたことも私は忘れていません。
私には、病院などで煙たがられていた老人が、今度はYouTubeで迷惑老人と呼ばれる未来が見えます。
まあ病院で迷惑行為に及ぶことに比べればマシですが、なんというか……。
やはり、
という本書のメイン・メッセージに帰結するのかな、と思いました。
まとめ
というわけで本記事の要点を3点でまとめます。
- 本書『70歳からの世界征服』のメイン・メッセージは「老人は早く死んだほうがいい」
- 死後悲しまれる老人になりたければ、若いうちから死後悲しまれる人間を目指すべき
- しかし長生きをすれば結局老害になるので、やっぱり「老人は早く死んだほうがいい」
です。
はい。
身も蓋もない結論ですが、真実とはそういうものです。
というわけで総評!
評価: 5.0私は訳あって、というか信じる訳がないので、神さまのことを信じることができません。
ですから中田考先生のように、自殺を禁止しているイスラーム教とか、キリスト教とかに入信することができません。
以上、中田考『17歳からの世界征服』の感想でした。
THIS IS THE ANSWER.