入水自殺が重複表現であるかどうかについて前回の記事で解説しました。
川で溺れている女性を相撲部屋の力士20人が救出した、というニュースが先日報じられ、大きな話題となっていました。ソース:力士およそ20人、川に飛び込んだ女性を救助 自殺図ったか 東京足立区 - Yahoo!ニュース - 2020年6[…]
上記で「入水自殺を図って橋の上から川に飛び降りた女性を20人の力士が救助したニュース」を取り上げましたが、このようにニュースを要約する際、
という表現を使いかけました。
しかし「入水自殺」と同様、ここでも違和感を覚えた私は、念のため辞書を引きました。
すると、
であるとの確認が取れました。
そこで「入水自殺」だけでも意味が重複している可能性があるのに、「身投げ」でさらに意味を重ねるのはまずい……というかだるい……と考えた私は、「飛び降りた」を使用しかけたわけですが、
みたいなだるすぎる考えが次々と浮かび、とりあえず前回の記事では「身投げ」も「飛び降り」も使用せず、「入水自殺」にだけ専念しました。
というわけで、今回はこのだるすぎる疑惑を全部解消します。
ちなみに答えは、
です。
以下解説です。
「飛び降り」と「飛び降り自殺」は違う意味
とび‐おり【飛(び)降り/飛(び)下り】 の解説
ソース:飛(び)降り/飛(び)下り(とびおり)の意味 – goo国語辞書 – 2020年6月15日(月)閲覧。
高い所から飛びおりること。また、走行中の乗り物から飛びおりること。
とびおり‐じさつ【飛(び)降り自殺】 の解説
ソース:飛(び)降り自殺(とびおりじさつ)の意味 – goo国語辞書 – 2020年6月15日(月)閲覧。
高い建物などから飛び降りて自殺すること。
次に岩波国語辞典を……と調べてみましたが、岩波国語辞典(第七版)には「飛び降り」も「飛び降り自殺」も収録されていませんでした(「飛びおり」、「飛び下り」なども同様)。
したがってコトバンクで代用します。
ちなみに本記事で引用するgoo辞書の出典は「デジタル大辞泉(小学館)」です。
また本項目で引用するコトバンクの出典は「大辞林 第三版(三省堂)」です。
飛び降り・飛び下り・飛降り・飛下り(読み)とびおり
大辞林 第三版の解説飛びおりること。
ソース:飛び降り・飛び下り・飛降り・飛下り(とびおり)とは – コトバンク – 2020年6月15日(月)閲覧。
飛び降り自殺・飛降り自殺(読み)とびおりじさつ
大辞林 第三版の解説( 名 ) スル
ソース:飛び降り自殺・飛降り自殺(とびおりじさつ)とは – コトバンク – 2020年6月15日(月)閲覧。
走行中の乗り物や高い建物などから飛びおりて自殺すること。
以上です。
「飛び降り」に関しては、「入水」や「身投げ」のように「自殺」の意味は含まれていません。
もちろん略語としての「飛び降り(自殺)」はあるでしょうが、正式な言葉遣いではありません。
自殺を示す場合、正式には「飛び降り自殺」です。
そして川や海などに向かって「飛び降り自殺」を図り、水中で息絶えた場合は、
- 飛び降り自殺
- 入水自殺
どちらで表記しても矛盾はないため、問題もありません。
「身投げ」と「投身」は「自殺」を意味する
み‐なげ【身投げ】 の解説
ソース:身投げ(みなげ)の意味 – goo国語辞書 – 2020年6月15日(月)閲覧。
[名](スル)みずから水中・火口などに飛び込んで死ぬこと。投身。「川に身投げする」
みなげ【身投げ】
ソース:岩波 国語辞典 第七版 新版 – 株式会社岩波書店
水中・火口などに飛び込んで自殺すること。投身(とうしん)。
上記のとおりです。
- goo辞書では「身投げ」=「みずから(中略)死ぬこと」
- 岩波国語辞典では「身投げ」=「自殺すること」
と明記されています。
したがって「身投げ」=「自殺」です。
また「身投げ」とイコールで結ばれている「投身」についても引用します。
とう‐しん【投身】 の解説
ソース:投身(とうしん)の意味 – goo国語辞書 – 2020年6月15日(月)閲覧。
[名](スル)身を投げ捨てること。特に、水中に飛びこんだり高い所から飛びおりたりして、自殺すること。身投げ。
とうしん【投身】
ソース:岩波 国語辞典 第七版 新版 – 株式会社岩波書店
〘名・ス自〙身を水中などに投げて自殺すること。みなげ。「―自殺」
以上、ここでも「投身」=「自殺」であることがわかります。
つまり「身投げ」=「投身」=「自殺」です。
あれ……? でもじゃあ、
「投身」と「投身自殺」はまったく同じ意味
日常会話はもちろん、Googleやツイッターなどで「投身自殺」を検索すれば、使用例は無数に見つかります。
またgoo辞書にも、「投身自殺」の項目自体はありませんが、
身(み)を投(な)・げる の解説
ソース:身を投げる(みをなげる)の意味 – goo国語辞書 – 2020年6月15日(月)閲覧。
1 投身自殺をする。「屋上から―・げる」
と、「身を投げる」の解説で「投身自殺」が使用されています。
この現実を鑑みるに、「投身自殺」は市民権を獲得していると考えていいでしょう。
実際「入水」と同じく、「投身」だけで死の気配を感じ取ることは困難です。
「投身自殺」と表記したほうが事態を把握しやすく、わかりやすいという側面は否めません。
ただし、本記事でこれまでに引いた辞書が示すとおり、「投身」=「自殺」です。
したがって、
基本的には使用しても問題ないでしょうが、重複には違いありません。
以上を念頭に置いておくと、厳密な言葉遣いを要する際などに役立つはずです。
まとめ:「投身自殺」は重複、「飛び降り自殺」は違う
まず「飛び降り」に「自殺」の意味は含まれず、文字通り飛び降りる動作のみを指します。
したがって「自殺」を含めたい場合は、「飛び降り自殺」と表記しましょう。
次に「身投げ」の場合は、「自殺」の意味が含まれます。
したがって「自殺」の意味を含めたくない場合、「身投げ」は不適切です。
また「投身」も「身投げ」と同義であるため、同様です。
したがって「投身自殺」は、
といった意味になりかねず、正確な日本語を期する場合は避けたほうがいい表現です。
しかし「投身自殺」は日常的なコミュニケーションで多用されており、goo辞書等にも記載されている点から、カジュアルに使用することに問題はありません。
もちろん当ブログも基本的には日本語カジュアル勢なので、「投身自殺」は使用していく所存です。
余談:「飛び込み自殺」と「飛び降り自殺」の違い
なお余談ですが、橋の上から川に飛び込んで自殺する場合、「飛び込み自殺」という用法もあります。
たとえば前回引用した記事では、「川に飛び込んだ女性」などと使用されています。
ソース:力士およそ20人、川に飛び込んだ女性を救助 自殺図ったか 東京足立区 – Yahoo!ニュース – 2020年6月12日(金)閲覧。
しかし私は「飛び込み」というワードに対して、
のイメージが強いため、「自殺」のイメージに対してアグレッシブすぎると考えて使用は避けました。
が、「飛び込んだ女性」の表現に準ずるなら、「飛び込み自殺」や、その略語である「飛び込み」でも問題はありません。
「飛び込み自殺」は「飛び降り自殺」とほぼ同じ用法で、動作が違ったり、向かう先に電車などが追加されたりするだけです。
以上、参考までに。
川で溺れている女性を相撲部屋の力士20人が救出した、というニュースが先日報じられ、大きな話題となっていました。ソース:力士およそ20人、川に飛び込んだ女性を救助 自殺図ったか 東京足立区 - Yahoo!ニュース - 2020年6[…]
THIS IS THE ANSWER.